◆不審な影/京吾/お嬢その他

沙紀「今、誰か外で動いていたような気がするんですけど・・・」
龍「さあ、・・・猫じゃないんですか?」
山木「きっと猫ですよ」
ヤス「ああ、最近良く出てきますからねえ、猫」
スミス「ああ、また猫ですか」

龍「それにしても、猫っていいですよねえ・・・そう思いませんか、お嬢?」(←猫好き)
ヤス「全くもって、若頭の言うとおりです。猫はいい。何しろあの丸っこくてふわふわして柔らかいあの手触りがいい」(←猫好き)
灰谷「うむ、もふもふだな・・・」(←猫好き)
沙紀「灰谷先生!!・・・っていつからここに?」
スミス「あの子悪魔的性格・・・あの妖艶な動作・・・理想の女性というものが持つべき全ての要素を猫というのは生来持ち合わせてますな」(←猫好き)
灰谷「そうだな・・・猫の美しさにはそれだけで人の生涯を狂わせるような魅力がある」(←猫好き)
沙紀「灰谷先生・・・どうしてここに・・・まさか・・・」
山木「うっ・・・く、また、ミーちゃんのことを思い出してしまう・・・ミーちゃん、こんな俺を許してくれ・・・うう、もう泣かないって、決めたのにな・・・なあミーちゃん・・・?ああ、ミーちゃん・・・ぐすっ」(←猫好き)
灰谷「泣くな山木・・・いや、しかしそうだな・・・男には涙を流さなくてはならないときがある。それがまさに今このときだ。心配しなくてもいい。お前が泣きたくなった時、俺がいつもそばに居て、一緒にミーちゃんのことを思い出してやるから・・・」(←猫好き)
沙紀「灰谷先生それちょっと格好いいです・・・じゃなくて!何しに来てるんですか!もう!」

龍「そういうわけでお嬢、さいきん組のまわりでなにか人の動く気配を感じたとしても、それは全て猫!お嬢が心配することなど、一切ございません」
うんうん、とうなづく黒服3人衆+保険医。
沙紀「あ、そうなんですか、それなら、いいんですけれども・・・」
そういって、沙紀はその場は納得し、部屋に戻っていくのだった。

しかしその夜。
(猫が来てるんだったら、なにか食べるものとかおいておいたほうがいいのかなあ・・・野良猫ならお腹を空かせているかもしれないし・・・)
ツッコミに反して、割と猫好きであった沙紀は、夜がふける頃にはお腹をすかせた野良猫を心配するようになっていた。
(にしても、こんな夜中にカリカリとか買いに行くこともできないし・・・かといって気になってしまったからにはなんていうか放っておけないし・・・)
そんな風に思い巡らせながら、深夜のキッチンへと足を運ぶ。
「これと、これと・・・これで、うん、大丈夫!」


ところ変わって虎桜組、庭先。
レテ「なんだよ、こりゃあ・・・。」
始末屋としての活動の帰り道。
青々と茂る庭木と高級な魚の泳ぐ広大な池。
いつもの見慣れた、自宅への帰り道となる落ち着いた庭先に光るのは、豆電球に照らされた一本道とその道沿いに等間隔で置かれた水入りペットボトル。そしてその道へ誘導するかのように惜しげもなく撒かれているものは
レテ「煮干・・・?」

レテはまだ真意を知らない。
しかし、生まれついて持った超人的能力は彼の脳裏になんらかの警告を発信していた。
レテ「この俺に・・・挑戦かよ。こんな俺のホームグラウンドである虎桜組の敷地内で堂々と・・・甞められたものだな」
自嘲的に笑う、レテ。
彼のこれまでの人生はいつも憎しみや復讐、そして戦いに満ちていた。人に恨まれることは数え切れないほどあった。それでも、向かってくる火の粉は全て自身で払わなくてはならなかった。

自分へ向けられた挑戦は、全て突破しなくてはならない。
それが、レテを、レテたらしめてきたもの。

レテ「父さん母さん、それに・・・葉澄。俺はこんなことなんかに屈しない。どんな挑戦にだって、打ち勝ってみせるから・・・!」
レテは誓う。胸の中の思い出に。あるいは熱い決意に。
レテ「いくぞ・・・!!」
レテは駆け出していった。

***

沙紀「京吾くん・・・京吾くんてば、大丈夫?」
京吾「ん・・・?」
京吾が目覚めたのは、庭先の『挑戦者への道』の半ば。
豆電球とペットボトルで彩られた道半ばで、いつの間にか力尽きていたようだった。
それにしても迂闊だった。
よりによって、自分の家の敷地内で敵の罠に捕まり力尽きていたところを、思い人である沙紀に助けられてしまうとは。
みっともないところを、見せたとは思う。
しかし孤児として生活をし、組に入ってからもおこづかい程度の少ない給金で、学費や各種の独学への道を切り開いてきた京吾にとって、『食べ物を無駄にする』など言語道断。道案内をするかのように一定感覚で撒かれていた煮干を口にしていくうち、意識を失ったようだ。
京吾(敵の奴・・・煮干になにか毒物を入れておいたのか・・・俺の性格を見越して・・・なんて卑劣・・・)
京吾は昼間の自分に戻っていることも一瞬忘れているかのように、憎しみに顔を歪ませる。そんな京吾が思い悩んでいるなか、沙紀は京吾を労わるように優しげな面持ちで語りかけてきた。

沙紀「猫って言うのはね、水の入ったペットボトルが苦手なんだって」
京吾「はい?」
沙紀「あ、それで夜行性だから、多分明るい光を嫌うと思って、豆電球で道を作ったの。そうすれば、思ったとおりの道へ歩いてきてくれるんじゃないかと思って」
京吾「・・・うん・・・」
京吾はまだよく話の流れをつかめない。
沙紀「それで煮干を撒いておけば、猫が私の部屋の近くまでおびきよせられてくれるかなー、っておもってたけど、ちっとも来なくて、気になって見にきたら京吾くんが倒れてるじゃない?」
京吾「・・・・・・・・・・」
沙紀「なんでだろう、って思って、煮干の賞味期限見てみたら、いまから13年も前に切れてるんだよー。もー。山木さんてば料理上手いのに食物の衛生管理とかなってないよね。やっぱりこういうのはしっかりものの京吾くんがいないとダメだよね!間違って食べたりしたら大変なことになっちゃうよー。」
京吾『(お前が俺の敵かーーーーーー!!!!)』
京吾の怒りはフルパワーを振り切り、今にも目前の沙紀を廃人にしそうになったが、すんでのところで思いとどまった。
沙紀「だからゴメン、ね?京吾くん・・・」
一応は真剣に謝ろうとする沙紀を見ながら、今度は相手を倒す技や策略だけでなく、胃腸の強さも鍛え上ることを密かに心に誓うのであった。

後日。
龍「えー、猫なんてウソですよ、ウソ!お嬢、本気にしちゃったんですか?可愛いなー」
ヤス「そうですよ、ちょっとからかっただけっすー」
スミス「最近コミュニケーションが不足してましたからね・・・」
山木「え、おびきよせ作戦なんて発動してたんですか。さすがお嬢、思いやりがあるなー」

京吾『(真の敵は、黒幕は、やっぱりこいつらだったのかよ!!!)』

その後、フルパワーのレテ(内臓強化済)の策略に次々と懲らしめられていったのは言うまでもない。



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