猫耳なんて馬鹿しかつけない レニ/セイジュ/カイル/アーシェ/瀬名 (後編)
「それにしてもレニ様、あんな呪いがかかってしまうなんて、おいたわしい・・・」
「ねえねえ、呪いなんてウソで、本当はあれってレニ様の趣味なんじゃないの?」
「ええー、まさか、ショックぅー。あのクールなレニ様が・・・そんなんだったら私、レニ様のファンやめる!」
「そうよそうよ、私たちと一緒に、セイジュ様ファンクラブに入りましょう!」
休み時間、少し教室から外している間に、女生徒たちがあることないことを噂しはじめ、レニはうっかり教室に入るタイミングを逃
してしまっていた。
仕方がないので所在無さげに教室前に佇んでいると、
「やあ、可愛い小鳥ちゃん達。もしかしてそのさえずりは、レニのことを心配してくれてるのかな?相変わらず、優しい子達だね。
僕もレニの家族として、涙が出るほど嬉しいよ」
「セイジュ様・・・!」
・・・やっかいなモノが加わってきた。
「僕もいろいろ呪いを解除する方法を探したんだけど、無理みたいなんだ。やっぱり、レニ自身が優しい心を取り戻すしかないん
だよ、そう・・・君達みたいにね」
心底、心を痛めているような表情のセイジュにそういわれて、顔を赤らめる女生徒たち。
「で、でもセイジュ様。レニ様が何か、そんな呪いにかかるほどの、いったいどんな悪さをしたっていうんですか?
「きっとほら、あれよ。あのアーシェとかいう子、そうに決まってる!」
「そうかもしれないね・・・レニは君達みたいに素敵な女の子の愛に囲まれていたのに、その愛に突然背を向けて一人の女の子
に走った・・・。僕にはとても信じられないよ。いままで君達から受けた優しさのことなんて、まるで忘れてしまったかのように、あ
んな悪魔みたいな女の子一人に入れ込むなんて。
僕はこれは裏切りだと思っているよ。君達の心はいまだこんなにも愛に満ち溢れているのに」
「セイジュ様・・・やっぱりセイジュ様はお優しいんですね!わたしも今日からレニ様なんてやめてセイジュ様ファンクラブに入りま
す!」
「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」
・・・なんだそれ。
セイジュの言い分も突っ込みどころ満載だが、それに次々と乗っかる女子の思惑がさっぱりわからない。
あいつら全員なにか悪い薬でもきめてるんじゃないのか・・・
そんな時、レニの背後から更に厄介事が舞い込んで来る。
「あっれ〜?レニ君ってばこんなとこで、何女の子のウワサ話を立ち聞きなんてしちゃってるのかなあ〜??ほら教室に入って
入って」
瀬名だった。
それを見て女の子達が一斉にどよめき立つ。
「レ、・・・レニ様、違うんです!私、彼女達にそそのかされただけで決して本気なわけでは・・・!」
「わ、・・・わたしも!彼女がいてもいなくてもやっぱりレニ様が一番かっこいいと思います!」
「そ、そんなことはどうでも、いい・・・」
やっとのことでそれだけの言葉を搾り出すと、セイジュからぎゅん!と激しい非難の目付きが飛んでくる。
「いい、・・・と思うんだ、にゃー・・・」
魔力のことは皆にはヒミツ。
それは確かにそのとおりだが、何故ここまで付き合っているのか、自分は・・・。
と軽くレニは落ち込む。
「あはははー、ほんとに猫の呪いなのかなあー。あいかわらず面白いよね、レニとセイジュは」
能天気に加わってきた瀬名を見て、いささか面白くなさそうにセイジュは問いかける。
「君、・・・何か用?」
「べっつに〜。ただ、この学校で二分されている、レニ派とセイジュ派の二大勢力が大きく塗り替えられそうだって言うんで、面白
そうだから見に来ただけ。そしたら、なんてことはない、セイジュが一人で暗躍してレニ派の女の子達を地道に取り込んでるだけ
、っていうのが分かって、面白くてさあ。」
「地道に?取り込み??人聞きが悪いね。僕はただ、女の子達と楽しくおしゃべりしてただけだよ」
「セイジュがそういうならそれでいいけどねー。ただ、セイジュファンは徒党を組んで親衛隊とか作りがちだから、一見数が多いよ
うに見えるけど、実のところレニファンって、心にそっと想いを秘めている隠れファン的なおとなしい子が多いからね。ファンクラブ
をとりこんだところで、ようやくどっこいどっこいなかんじなんじゃないの〜?」
そうだったのか。
ていうかなんでこの男は女子のファンクラブ勢力情報にこんなに通じているのか。
「瀬名!あんたなんてこというのよ!邪魔だから今すぐここから出て行きなさい!」
「レニ様・・・やっぱり猫耳でもレニ様のことが・・・」
「瀬名って意外と冷静で頼りになるところあるよね・・・。わたし、レニ様もセイジュ様もやめてセナ派にかえちゃおうかな」
女子の反応もそれぞれである。
「セイジュがこんなに影で努力して、たとえギリギリ勝ったところで馬鹿馬鹿しい話だよねー。
結局のところレニはこんな勝負相手になんてしていないのに、こんな猫耳つけたくらいで勝った気になってるなんて、本当にセイ
ジュは可愛いよね。ね、そう思わない?レニ。」
レニに話が振られる。
それにしたって馬鹿馬鹿しいのはこちらの話である。
そんな見え透いた挑発をされたところで、乗っかってくるような馬鹿など・・・
「いってくれるね!・・・瀬名!!」
いた。
「前々からうざったいチビだとは思ってたけど、この僕に正面からケンカを売ってくるなんてなかなか勇気があるじゃないか。
いいよ、ちびっこ。今この場でお前なんてひとひねりにしてやるさ!」
セイジュからは、いつもの余裕の笑みが掻き消え、憎悪と怒りを剥き出しの表情をあらわしている。
こいつ、そんな事気にしてたのか・・・。
結構、馬鹿だよな・・・。
知ってたけど・・・
「あはは、いいよ。僕も前から君達兄弟が嫌いで嫌いで仕方がなかったんだよね〜。
今の君なら僕にだって余裕で倒せると思うよ」
対して、余裕の表情の瀬名。
そういって、2人の身体から、紫色の稲妻のようなオーラが出始める。
まずい!2人とも、魔力でやりあう気か!?
怒りで我を忘れているようだが、こんな場所ではまずい。
それに魔力のことが他の生徒にばれたら大変だと、先に言っていたのはセイジュのほうじゃなかったのか。
「やめるんだニャー。二人とも落ちついて周りを良く見ろ!ここがどこだか分かってるのかニャー」
必死に注意を促すがやはり二人とも聞いてない。
思えばいつだってそうだった。
俺が注意しようとしても大体皆、熱くなりすぎていて、聞きやしないんだ・・・。
こういうときに限って妙に冷静になってしまい、今更猫の呪いのことを思い出して猫語で喋ってしまったけれど、
本当は全然そんな必要なかったんじゃないだろうか・・・。
猫の呪いにこだわるよりも、もっと別な方法があったんじゃないだろうか・・・。
俺はどうしてこう余計なことばかり気が回ってしまうのだろう・・・。
と、思わずレニがネガティブに浸っている間に、事態はもう止めきれない争いにまで発展していた。
ぱちぱち、ぱち・・・
「はっ・・・!」
黒い光と白い光はもはや二人の頭上でものすごい大きさになっている。
こんなものをぶつけあったら・・・!
「行くよ!」
「くらえ!」
ドーン・・・!と大音響とともに、教室は白と黒の光で包まれた。
*
「はっ、わたしたちいったいどうしたのかしら?」
生徒達が次々と今目を覚ましたように気がつく。
間に合った・・・。
とっさに、レニの魔力で爆発の直後に衝撃を最小限に抑え、かつ残された衝撃のどさくさにまぎれて
クラス中の人間の意識を操作した。
これでなんとか、騒ぎになるのは抑えきれる、はず。
そう思っていたレニのところに、女生徒たちの騒ぎが聞こえてきた。
「ああっ、皆たいへん!セイジュ様が、セイジュ様がお倒れになっているわ!!」
「セイジュ様、セイジュ様大丈夫ですか!?」
「・・・!」
それを知ったレニはすぐにセイジュの元へと向かう。
「セイジュ!セイジュ・・・!大丈夫か・・・」
「はは・・・ドジっちゃったよ・・・。やっぱりレニにはかなわないな。
魔力を使いすぎてしまったみたいだ。僕にはもう、力が残っていない・・・。あとは、よろしくね、兄さん・・・」
「・・・」
気絶した。
いや、いまの戦いの前にもずっと猫耳強制装着のために力を使い続けていたようだし、
魔力を使いすぎで意識を失ったことには間違いないだろうから、特に心配は要らないと思うが。
「あっ、皆、見て!・・・レニ様、レニ様の耳がなくなっているわ!」
「本当!もしかして、レニ様、お優しい心を取り戻されたのでは!?」
「そうよ!ホラ見て!あのセイジュ様を心配して駆けつけてきたレニ様の真剣なお顔を!」
「優しい心だわ!きっとレニ様のお優しい心が猫の呪いに打ち勝ったのよ」
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」
パチパチパチパチパチパチパチ・・・。
気がつくと、男女ともなく、クラスの枠も関係なく、皆が祝福の笑顔と拍手でもってレニを讃えていた。
そしてセイジュは意識を失ったままで、瀬名はいつのまにかどこかへ逃げていた。
「なんてことしてくれたんだ、セイジュ・・・」
レニは人知れず、がっくりと肩を落としてうなだれる。
セイジュの嫌がらせはこうして、本人意識不明のまま、計画以上の成果で果たされることとなった。
戻る