白雪姫と7人くらいの大人たち

白雪姫:お嬢
王子:京吾
女王(継母):朝生
鏡:武藤
小人(というか大人)達:灰谷、若頭他

あらすじ:王子様のキスで、目が覚めます。

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「世界で一番偉いのは誰だ」
・・・昔々あるところに、心の狭い女王様がおりました。
「あー、はいはい、女王様がいちばん、えらいですよー」
女王様は心が狭い上、几帳面で時間にうるさい為、毎朝毎晩きっかり同じ時間に鏡に対して同じ質問を繰り返すので、鏡の方もそろそろ相手をするのが面倒くさくなってきたようです。
「お前の言い方は、心がこもっていない。そもそも世界で一番偉いという私に対して、もっと敬意を払おうという気はないのか」
あー、めんどくさいなあ。と、鏡は思います。
結局、適当に言っても、(鏡にしては)頑張って言っても、お説教されるだけなのです。

「んー、間違えた。世界で一番偉いのは、白雪姫、じゃないかなー、多分」
「何!!」
ここらで茶番もおしまいにしてしまいたい鏡としては、面倒だったので、当たり障りの無さそうな他人の名前を適当に出しておきました。
「・・・なんということだ・・・この私が・・・幼いときから勉強も運動もさんざん努力して、委員長とか生徒会長とか人の面倒くさがることも進んで引き受けてきたこの私が・・・いまとなってはこの若さでコンツェルンの経営すら任され、毎朝筋トレをつづけつつ株価の変動にもチェックを怠らないこの私が、世界で一番偉くないだと・・・?おのれ白雪姫・・・」
・・・努力の人でした。
そうして、なんだかんだいっても気の弱い女王様はあっさりと心を打ち砕かれ、自分の殻にこもって悩み始めました。
これをチャンスとばかりに鏡はお城から逃げ出そうと提案します。
「んー、そう。だから、もうこういうの終わりでいい?」
「そうだ、よし!白雪姫など、森へ追放してしまおう!森には悪い大人たちがたくさんいるから、きっとあの悪い白雪姫の貞操なぞあっと言う間に散らされるに違いない!善は急げだ!おいスミス!」
「はい、女王様!」
「じゃあ俺、うどん食べにいってくるー・・・」
女王様が重大な決断をあっという間に下し、白雪姫を森へ追放する手配をしている間に、鏡はどこかへ行ってしまいました。





「というわけで、白雪姫様。今日から森の山小屋に住んでください」
白雪姫が連れてこられた山小屋は、
7人くらいの小人、もとい大人たちが先に住み着いていました。

悪い大人たちの住む森。
そこへ迷い込んだ若い娘は必ず、大人たちにひどい目に会わされるというように聞き、白雪姫は恐怖に慄いていました。

(ここに大人たちがいるのね・・・。お母様がいうには、野蛮で強引でとってもふしだらな生き物だそう・・・
ああ、いったい、わたし、これからどんな激しい陵辱を受けるのだろう・・・。
地下室に監禁されたり、体育倉庫に縛られたりしながら、抵抗できないのをいいことに、噛み終ったガムを髪の毛につけられたり、下着の色を言わされたりするんだろうか・・・。
ああ、私ってばなんで新しいパンツを穿いてこなかったんだろう、こんなことになると事前に分かっていたら、とっておきの新品で一番可愛いパンツを選んで来たのに・・・)
・・・白雪姫は、ちょっと想像力がたくましめのわりに比較的純情で、何かがずれた子でした。

そうこうしているうちに野蛮で強引でふしだらと評判の大人たちが、七人ほど現われて白雪姫の周りを取り囲んだかと思うと、皆で白雪姫に対して口々に言いました。

「白雪姫!お待ちしておりました。ああ、噂どおりに、なんていう可愛らしい」
「白雪姫!焼きたてのパンなどはいかがですか?」
「白雪姫!お部屋を用意しておきました。ソファーとベットを新調してあります!お望みでしたらマッサージチェアとプラズマテレビもご用意いたします!」
「白雪姫!お風呂の用意も出来てますのでいつでもおっしゃってください!大理石です!温泉です!天然露天檜風呂です!」
「白雪姫!もちろん覗いたりしませんから思う存分おくつろぎください!」
「白雪姫!着替えにはメイド服も用意してありますよ!」

・・・いい人たちでした。
後半少し怪しくなってきましたが、皆、白雪姫のことを思ってもてなしてくれているようです。

「メイド服か・・・それもいい。だが白雪姫。萌える衣装といえば昔から、セーラー服・ブルマ・スクール水着、の三種の神器であることは白雪姫も当然ご存知の通りですが」
「いえ・・・知りませんけど・・・」
・・・前言撤回。ずいぶん怪しいかんじの大人も混じっているようです。
「ここ数年で、この3大神器に、メイド服と巫女装束がすっかり定着したということになりましょう。確かに、女学生の制服デザインも多様化しており、セーラー服一辺倒だった時代と較べたら、太ももの絶対領域を美しく表現するオーバーニーソックスや、脚を見せることに対し健康的なアプローチを表現出来るスパッツなどの台頭も喜ばしい限りです。しかし、とりわけスク水・・・その中でも後発で出てきた『白スク水』の萌え具合にかんしては、その質感といい、その肌色の絶妙な透け具合といい、素晴らしい完成度を誇っている・・・、そう思いませんか、白雪姫?
さあ、そうと分かれば白雪姫。我々とともに萌えの芸術白スク水とツインテールで、共に自慢の天然露天檜風呂へと参りましょう。我々大人一同、誠心誠意新しい時代の女神様を称えるため、喜んでお背中を流させていただきます」

「いえ、ひとりで結構です」
白雪姫がそう答えると、スク水萌えの大人も、他の大人たちも一斉に、しゅんとうなだれてしまいました。
・・・多分、いい人達です。

それにしても、温泉露天風呂。
近くに活火山のあるこの辺りの森は、源泉かけ流しの天然温泉としてこのあたりでは評判の温泉地です。
無色透明の湯は肌あたりが柔らかく、自然の塩分を豊富に含んでいるのでお肌がつるつるになる上に、お湯から出てもずっと長いこと体がぽかぽかと暖まってくるようです。
これから寒くなるこの季節にはうってつけです。
そのうえ、露天風呂は広大な景色を見下ろしながら四季折々の自然を満喫することが出来、
日々の仕事のストレスを癒してくれます。

「ああ、楽しみだなあ、温泉、温泉〜」
そんな風に今にもスキップを踏み出そうとする白雪姫を、何者かの叫び声が引き止めました。

「白雪姫!白雪姫がいるのは、ここか!」
なんということでしょう、継母である女王が山小屋を訪ねてきたのです。
どうしよう、今度こそひどい目にあわされる、と白雪姫が恐れおののいていると、女王は従者を連れて、何か怪しげなものをそっと白雪姫の手にしのばせました。
「白雪姫・・・先ほどは済まなかった。私も鏡にそそのかされて、大人気ないことをしてしまった、とあのあと我に返って、正直反省している。
お詫びの印・・・などと図々しい事はいえないが、青森産の最高級りんごをスミスに用意させた。もし私を許してくれるようであれば、どうか受け取って欲しい」
・・・いい人みたいでした。その上必要以上に謙虚です。

いやそういえば、童話では白雪姫は継母からもらったりんごを食べたら、それに毒が入っていて倒れてしまったはず。
継母は裏でなにかたくらんだ結果、毒りんごを仕込みに来たに違いない。
そうとわかれば、決してこのりんごを口にするわけにはいかない。ましてや大人たちの口に入ることの無いように、丁重に継母にお返しするべきでは?
と思い悩んだ白雪姫でしたが、贈り物を開けた大人たちから出てきたのは意外な事実でした。

「・・・りんごパイだ」
「すげえ!これは本場青森でも行列しないと手に入らないというブランドの、有名パティシエの作った数量限定のロイヤルりんごパイだ!」
「うちの女王様は甘いものに関しては決して妥協しないお方ですからね」
「こらスミス、余計なことをいうんじゃない」
・・・りんごパイでした。
これなら、個包装だから毒なんていれたらすぐにバレてしまうから入れようがありませんし、喉に詰まらせたりもしません。
そのうえ包丁を入れて分ける手間も省けるので、中途半端な人数の大人たちにも均等に分けることが出来るという心遣いすら感じられます。
・・・やはりいい人なのかもしれません。

「早速、お茶を入れてきますね」
白雪姫がお茶を淹れに席を立とうとした時、
「うっ・・・!」
どこからか、誰かの呻き声が聞こえてきました。
「み、水・・・だれか、水を・・・がくっ」
そこでは見ず知らずの青年が倒れていました。
なんと、やはり毒が?
「大変だ、誰かがりんごパイを喉に詰まらせて倒れた!」
「なんて奴だ・・・お茶が入る前にりんごパイを飲み込もうとするなんて無茶しやがって」
「誰か・・・早く救急車を!・・・ていうかこれ誰?!」
「なっ・・・鏡!何故お前がここに!」
・・・喉に詰まらせたみたいです。
倒れた人は女王様の知り合いのようでしたが、皆、自分達の仲間のように心配したり慌てふためいたりしてました。
とてもいい人たちです。

しかし慌てふためくばかりでは解決しようはずもありません。
どうしたものかなあ、と白雪姫が思案していると、新たな人物が山小屋へと入ってきました。

「何騒いでんだよ。うるさいな」
「「「「「「「王子様!」」」」」」」
7人くらいの大人たちが一斉に王子様と呼んだその人は、紫の髪にちょっと悪そうな目付きのまだ年若い少年で、迷惑そうに倒れている青年を見遣りました。

「なんだ、お茶が入る前にりんごパイを食べて、喉に詰まらせたのかよ。相変わらず、人騒がせな奴だな」
この状況を一目で見抜いた王子様はそんなことをいうと、力いっぱい鏡と呼ばれる青年の背中に蹴りを食らわせました。
どかっ。げしっ。
「王子様!なんということを」
「王子様!暴力はやめてください!」
大人たちが皆必死で止める中、王子様はなおも力いっぱい青年の背中を蹴り続けます。
・・・あれ?これ、悪い人じゃない??

そんな風に白雪姫が見つめていると、程なくして鏡は喉に詰まらせていたりんごパイを吐き出しました。
「げほ、げほっ、ふう、死ぬかと思った」
「お前は何度死にかけてると思ってるんだよ。ちょっとはこっちの身にもなれ。正直迷惑なんだよ」
危ないところで生還してきた人にも心配などすることも無く、憎まれ口です。悪いです。
「うん、いつもごめんね、王子様」
言われた方はとくに気にしていない様子で、引き続き残ったりんごパイをもそもそと食べ始めました。

「それにしても、凄いんですね、王子様。いったいどうして、鏡の人を助けることが出来たんですか?」
不思議に思って白雪姫が問いかけると、王子様はなんでもないことのように答えました。
「ああ、俺、保育士資格持ってるから」

・・・保育士!
なんていうことでしょう。
やはりこの格差社会。成果主義がサラリーマン達の勤労意欲を奪い、経済の悪化によるサービス残業や賃金の二極化が進む中、資格取得者のなんと頼りがいのあることか。その上皆があわてふためいている中一目で状況を察して適切な行動がとれるあたり、さすがは保育士です。

だけど肝心なことを忘れていました。
王子様が現われた時点で、毒りんごを食べて眠っているはずだった白雪姫は、気がつくと王子様が人助けをしているのをなすすべも無く見守っていた始末。
これでは「王子様のキスで目が覚める」だなんて出会いはもうやり直せそうもありません。

(ああ、やっちゃったなあ、これじゃあ私、白雪姫なんて失格だよ)
そんなふうに思い至って少ししょげている白雪姫の頬に、そっと王子様の唇が触れるのでした。
ちゅっ。
「王子様!!??」
「そんな顔するなよ。出会いなんて何だって同じだろ?」
そんな風に悪い笑顔で言うと、今度は白雪姫の顔を自分の方へ向けていきなり舌まで入るような大人のキスを奪います。
んちゅっ・・・くちゅ、ちゅっ・・・。
「あー!!!!ちょ・・・、王子様!!!お前、一人で抜け駆けして、何やってんだっ!」
りんごパイを楽しんでいた大人の一人が白雪姫たちに気がついて、皆が騒ぎ始めました。

「あ、いえ、えっと、私達・・・」
「白雪姫が俺のことを好きだなんて始めっからわかりきってたことなんだよ。そういうわけで、さらっていくぜ」
「ええっ??」
・・・そうだったのでしょうか?とりあえず、白雪姫の意思も確認しないまま、無理矢理キスをしたり舌を入れたり、駆け落ち宣言したりとか、王子様は相当に悪者のようでした

「それともお前、俺のことイヤか?」
そんな風に今更聞いてきた王子様の目はどこか寂しく、傷つきやすい壊れ物のような不安定さで。
「ううん、一緒に行きたい。私、王子様のこと、好きです」
気がつくと、白雪姫はそんなことを答えてしまっていたのでした。

──王子様が、大好きです。
多分、はじめて会ったときから、その悪さに一目で心を奪われて、
そして、声をかけられる度、キスをされる度、もっと好きになっていく。

「ねえ、白雪姫。今度はお前からキスして」



王子様のキスで目が覚める。

そんなおとぎ話のようにして結ばれた2人は、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたということです。












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