ツンデレ談義  お嬢/若頭/朝生/灰谷/京吾/ヤス/山木その他

「ツンデレってなんですか?」
全てはその不用意ともいえるひとことからはじまった。



場所はいつもの虎桜組会議室。
いつものメンバーが顔をつき合わせているところへ、今日は私、小泉沙紀も同席していた。

【若頭】
「そういうわけで今日のこの時間は『ツンデレ談義』だ。いまやこの日本が誇る世界の共通萌え属性、『ツンデレ』について、分か っていない奴が俺の目の届く範囲に居る。
残念・・・そうこれは、残念だが、決して取り返しのつかないことなどではない。
なあ京吾、安心するがいい。
お前にとって幸運だったのはこの俺様が近くに居た、ということだ。
今日は骨の髄まで、ツンデレの何たるかについて覚えこませてやるから、覚悟するんだな!」

【京吾】
「いや、別に僕は・・・」

【お嬢】
「(なんでわたしまで・・・)」

【ヤス】
「やかましい!桜学園伝説のアニメ研究会会長、あの有名な『閃光の萌え伝道唯一神』那由多龍さんが、
又の名を『秋葉原を揺 るがす奇跡の童貞〜オータムン・チェリーガイ』若頭が直々に萌えについて語ってくれるっていうんだよ。ちょっとはありがたく聞 きやがれ!」

【京吾】
「童貞なんだ・・・」

【山木】
「確かに、若頭の運営する萌えブログは独自の濃さとマニアックさが受けて一日200万PVを記録する超有名サイトだ。この筋で
知らない奴はモグリだといってもいい」

【灰谷】
「そう。性欲、性欲の問題だよ・・・」

【お嬢】
「灰谷先生・・・!また、いつの間にこんなところへ!?」

【灰谷】
「二次元キャラは所詮記号的存在・・・。しかし、それでこそ、個々の資質が試される。それは・・・つまり妄想力。」

【京吾】
「あ、ハイ・・・」

【灰谷】
「現実の恋愛もいいだろう。ただし俺達に試されているのはもっと高度な理論的思考。
そこは洗練された計算と深く考察された思想が必要とされるハイレベルなステージにある。即物的な快楽などは求めない。
俺達の性欲はただ自分の理想を追いもとめ、現実に囚われることなく、さらなる高みを目指すことができる、言わば職人的性欲・・・選ばれた者達のみが目指すことのできる・・・ステージだ。」

【お嬢】
「灰谷先生・・・すごく、格好いい・・・!、のに、何故かこう、無様なかんじがする・・・」

【京吾】
「いや、本物の職人に失礼ですよ・・・」


【若頭】
「灰谷先生は独身で高収入のもてない中年男子なので、ツンデレの他にもさまざまな萌え属性を取得しているんだ。
特撮、触手、ふたなり、ショタなどその方向性は多岐に渡るといってもいい。
俺も尊敬しているのさ。先生のような紳士になれたら、どんなにか人生、楽しく生きられるか、・・・ってな。」

【灰谷】
「よせよ龍・・・照れるじゃないか・・・」

【京吾】
「いやそれ多分、褒めてない、・・・ような」

【山木】
「確かに、先生の運営するエロ情報ニュースブログは独自の変態さとしつこさで話題を呼び一日5000万PVを記録するお化けサイトだ。こんな有名人と直で喋ることができるだけでも俺達は幸運だといってもいい・・・」

【お嬢】
「それって・・・すごいんですか・・・?」


【若頭】
「そう、妹ブームがあった。メイドさんブームがあった。しかし何かが違うと思っていた同志達は確かに存在したのだ。
現に、俺は予感していた・・・!従順なだけではない、気持ちの見えないあの娘の冷たい態度に落ち込んでいるときに予測のつかない方向から突然襲ってくる・・・デレ!これだ!!
『あんたのために作ったんじゃないんだからね・・・!』そういって渡される弁当箱の至高の輝き!
『一緒に帰るわけじゃない、ただ方向がいっしょなだけよ!』そんな下校途中の帰り道に咲く一厘の花のなんと鮮やかなことか!
そして罵られ、いたぶられ、踏みつけられた末に一瞬だけ垣間見える彼女の本心は・・・」

【ヤス】
「俺は幼馴染系ツンデレがやっぱ基本ってか・・・ツボ入るんですけど、さいきんはボーイッシュ入ってるとなおいいっす!」

【灰谷】
「お嬢様系に勝るものは無い」

【山木】
「あーそれもいっすねー、俺はお姉さん系なら大体いけますね。ただし見た目はロリ風で」

そういって男達は自分の思い思いのツンデレ論議をぶつけあう。
もはや『ツンデレを伝道する』という当初の目的らしきものを見失っているふうをわたしはあっけにとられた表情で見ていた。

【京吾】
「ねえ、小泉さん、このまま2人で逃げちゃおうか」

【お嬢】
「え・・・??でも・・・」

【京吾】
「大丈夫。皆楽しそうにしてるし僕達のことなんか気にしてないよ。2人で冷蔵庫のプリンでも食べちゃおうよ。皆には秘密で」

【お嬢】
「あ、・・・天音君」

【灰谷】
「そう、最近は有機的な形状のみならず、喋るという方向で触手の個性が台頭してきてだな・・・」

【京吾】
「ね?だから、ふたりきりで、抜け駆け」

【お嬢】
「ちょ、・・・顔、近いよ・・・天音くんっ・・・!」
そんなふうに積極的に囁いてくる天音君の表情は、すこし悪戯っぽくも妖しげで、
なんだかいつもの天音君じゃないみたいだった。

【???】
「お楽しみのようだな」

びくっ・・・!
2人の呼吸が止まる。

【???】
「人がこんなに遅い時間まで忙しく働きづめだというのにお前らと来たら、アニメの話に触手の話、果てはプリンで抜け駆け相談
会・・・というわけか・・・!」

【お嬢】
「あ、・・・朝生さん!」

【龍】
「あ・・・朝生!!イヤ、俺達は決して仕事をたださぼっていたというわけではなくてだな・・・」

【朝生】
「龍!お前には次の総会で使う書類の推敲を任せていたはずだ!
それに京吾、キッチンが片付いていないぞ、何をやっている!
ああ、山木もヤスもこんなところで油を売っている暇があったら1件でも多く外回りの準備をしろと言っているだろうが!
そして灰谷!うちにばかり来ずに診療所の方にもちゃんと常駐していろと常々言っているだろう!この時間は急患が多いはずなのに何をやっているんだ!」

そういっててきぱきと指示を出す朝生さんに、やはり仕事を中途で遊んでいたという罪悪感だろうか。みんなすごすごと従っている。
というか怒られる灰谷先生なんてものすごくレアキャラなんじゃあないだろうか・・・。
朝生さんて、ときどき、やっぱりすごい。

そんなふうにまじまじと朝生さんを見ていると、ふとこっちを向いた朝生さんと目が合った。

【朝生】
「・・・・・・っ!」

【お嬢】
「朝生さん、お仕事さぼってて・・・ごめんなさい!それで私は、何をしたらいいですか??」

【朝生】
「お前は・・・いい」

目をそらした朝生さんは、ほとんど聞き取れないくらいの声で、何か言う。

【お嬢】
「え・・・?」

【朝生】
「お前は、・・・組長だから、何もしなくても、ただ皆の仕事を監視していれば、それでいいんだ」

【お嬢】
「でも、それじゃあ皆に悪いです!朝生さんだって、こんな時間まで、みんなのためにずっと働きづめだったのに・・・」

【朝生】
「それじゃあ・・・、お前は、いっしょにプリンを食べるんだ。」

【お嬢】
「・・・は?」

【朝生】
「お前には読解力が無いのか!今日一日、ハードな仕事で疲れきった私のために、プリンを食べるのに付き合え、といっているのだ」

そういってこちらの顔も見ずに、さっさとキッチンへと向かっていく朝生さんの顔は、心なしか赤くなっていたように見えた。

【お嬢】
「えっと・・・・・、これって・・・もしかしてツンデレ?」

ツンデレ談義。
それは龍さんたちの思惑とはまったく別のところで、思いがけず、ツンデレのなんたるかを訴える出来事となった。




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